東京高等裁判所 平成11年(行ケ)182号 判決 2000年5月31日
原告
松下電器産業株式会社
代表者代表取締役
A
訴訟代理人弁理士
B
同
C
被告
特許庁長官D
指定代理人
E
同
F
同
G
同
H
主文
特許庁が、平成10年異議第74239号事件について、平成11年5月10日にした特許異議の申立てについての決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた判決
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は、平成3年3月27日、名称を「加熱定着装置」とする発明(以下「本件発明」という。)につき特許出願をし、平成9年11月21日に設定登録を受けた(特許第2720616号)。
Iは、平成10年9月3日、上記特許につき特許異議の申立てをした。
特許庁は、同申立てを平成10年異議第74239号事件として審理したうえ、平成11年5月10日に「特許第2720616号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同年5月24日、原告に送達された。
(2) 原告は、平成11年10月12日、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正審判の請求をしたところ、特許庁は、同請求を平成11年審判第39082号事件として審理したうえ、平成12年2月18日、上記訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」という。)をし、その謄本は、同年3月9日、原告に送達された。
2 訂正前の特許請求の範囲の記載
【請求項1】 中央部が両端部より細く成形された加熱ローラと、前記加熱ローラに圧接して設けられるとともに該加熱ローラよりローラの長さが短く成形され該加熱ローラの両端にはローラが接しないように配設された加圧ローラと、前記加熱ローラ内に配設された前記加熱ローラを加熱する加熱手段とを備え、記録媒体に形成されたトナー像を熱により記録媒体へ定着する加熱定着装置であって、前記加熱ローラの表面温度を中央部から両端部へいくに従って低くしたことを特徴とする加熱定着装置。
【請求項2】 前記加圧ローラの径が前記加熱ローラの径より小さいことを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
3 訂正された特許請求の範囲の記載
【請求項1】 中央部が両端部より0.1㎜程度細く成形された加熱ローラと、前記加熱ローラに圧接して設けられるとともに該加熱ローラよりローラの長さが短く成形され該加熱ローラの両端にはローラが接しないように配設された加圧ローラと、前記加熱ローラ内に配設された前記加熱ローラを加熱する加熱手段とを備え、記録媒体に形成されたトナー像を熱により記録媒体へ定着する加熱定着装置であって、前記加熱ローラの表面温度を中央部から両端部へいくに従って低くし、前記中央部の表面温度を前記両端部の表面温度よりも5℃~10℃高くなるようにしたことを特徴とする加熱定着装置。
【請求項2】 前記加圧ローラの径が前記加熱ローラの径より小さいことを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
(注、下線部が訂正部分である。)
4 本件決定の理由の要旨
本件決定は、本件発明の要旨を、訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2記載のとおりと認定したうえ、本件発明が、実公平1-19147号公報及び特開昭62-262076号公報にそれぞれ記載された発明及び周知・慣用の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は、同法113条1項2号により取り消すべきものであるとした。
第3当事者の主張の要点
1 原告
本件決定が、本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2記載のとおりと認定した点は、訂正審決の確定により特許請求の範囲が前示のとおり訂正されたため、誤りに帰したことになるので否認する。
本件決定が本件発明の要旨の認定を誤った瑕疵は、その結論に影響を及ぼすものであるから、本件決定は、違法として取り消されなければならない。
2 被告
訂正審決の確定により特許請求の範囲が前示のとおり訂正されたことは認める。
第4当裁判所の判断
訂正審決の確定により、特許請求の範囲が前示のとおり訂正されたことは当事者間に争いがなく、この訂正によって、新たな構成要件が付加されたことにより、特許請求の範囲は、請求項1、2ともに減縮されたことが明らかである。
そうすると、本件決定が、本件発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2記載のとおりと認定したことは、結果的に誤りであったことに帰し、この要旨認定を前提として、本件発明が、当業者において容易に発明をすることができたものと判断したことも、誤りであったものといわざるを得ない。そして、この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は、瑕疵があるものとして、取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 長沢幸男)